《第21回大垣市市民大学講座》における担当講義「グローバル経済下の地域雇用戦略」(2001年7月4日(水) 大垣市スイトピアセンター)の講義要綱を修正・加筆した。合わせて関連資料を紹介する。 戻る
グローバル経済下の地域雇用戦略
1.はじめに
日本経済そして雇用も大きな転換期に立っている。そのもとで地域雇用の安定を実現するためにはどうすればよいだろうか。その答えを出すために前提となるべき諸点を考察する。それは、@日本経済はいかなる転換期に立っているか、Aそのもとで地域雇用はどうなっているか、B雇用政策はどのように対応してきたか、C地域雇用の安定化のためにどのような戦略が必要かつ可能か、という諸点である。
2.日本経済の転換点
1) 第三の転換期
日本経済が大きな転換期に入っていることは誰もが認めている。それがいかなる転換期なのかをまず時期の面からとらえる。高度経済成長以降でいえば、1975年、1985年、と二つの明確な転換点があった。現時点は1995年頃を転換点とする第三の転換期に当たる。(戦後全体でみれば、高度経済成長の始期に当たる1955年、40年不況に当たる1965年という二つの転換点を加えて第六の転換期となる。)現在の転換期は前の二つとは異なる。前の二つの時期には曲がりなりにも日本経済は新たな成長軌道を作り出した。しかし現在の日本経済はバブルの清算が完了しないばかりか、グローバル経済の荒波に飲み込まれている。成長軌道の回復どころかマイナス成長への転化と失業の急増に直面している。日本経済は戦後最大の転換期に入っていると言えよう。
2) 転換の契機―市場の限界と国際化
つぎに転換を促した契機の面からとらえる。経済成長が市場の限界に突き当たることは避けられない。日本経済は国際化、すなわち国内市場の限界を海外市場の拡大で補うことによって、新たな展開を成し遂げてきた。減量経営と集中豪雨的輸出を通じて経済大国化の道を歩んできたのが第一の時期に当たる。経済構造調整の旗を掲げて、国内市場開放と海外進出の道を本格的に歩みだしたのが第二の時期に当たる。しかしこの国際化は日本経済の新たな成長軌道を生み出すものではなかった。バブル経済によって一時的に覆い隠されていたが、グローバル経済のもとで日本経済発展の展望が見失われている。これが現在の転換期を特徴づけている。加えて女性化、高齢化の進展は経済成長とは異なる経済発展の道を求めている。
3) 成長政策の限界
こうした日本経済の展開のもとで、経済政策の基調は国際化の受容と推進を前提としながら、経済成長をベースとした経済発展を実現することにおかれてきた。しかしこうした政策の限界がますます明らかになってきている。いかなる国際化か、またいかなる経済発展かが問われている。「構造改革」が唱えられるゆえんもここにある。
しかしこの国際化は欧米の先進諸国に比べれば遅れた国際化であり、市場の限界と外圧に促された後追い的な国際化であり、したがって戦略なき国際化といわざるをえない。内需拡大をねらった公共事業の拡大や金融緩和が経済のバブル化を引き起こし、その後遺症が日本経済の足かせとなっている。国内市場の開放は農林業をはじめとする中小零細企業を直撃するとともに、金融破綻をももたらしている。国際競争力強化をねらった雇用リストラや海外進出が拡大するとともに地域産業、さらには地域雇用の空洞化が引き起こされている。
経済成長を回復させるための有力な手段は、依然として財政出動による需要の拡大であった。しかし国債の大増発による財政支出拡大の景気刺激効果は限られている。それどころか350兆円を超える国債累積は財政危機をいよいよ深刻化させている。もう一つの有力な手段は、規制緩和による有利な投資機会の拡大であった。これが福祉、IT、環境といった分野の新産業創出にいささかの効果があったとしても本格的な景気回復につながっているとは言いがたい。逆に規制緩和によるセーフティネットの脆弱化が国内消費の低迷を招いていることは否定できない。規制緩和も含めた従来型の成長政策の限界があらわになってきている。
4) 雇用政策の危機
雇用政策の限界もあらわになっている。雇用政策の目標が完全雇用の実現であることは依然として否定されていない。そのための政策手段の力点は失業者救済や失業防止から経済成長を基礎とした雇用の維持と創出に移行してきた。経済成長の行き詰まりは当然に雇用政策の限界をあらわにする。失業率の5%水準への高止まりだけでも完全雇用からの大幅後退を意味する。加えて雇用者・労働力総数の減少傾向というかってない事態が生じている。雇用の維持と創出に失敗していることは明瞭である。さらにパート・アルバイト・派遣などの非正規雇用が急速に拡大している。雇用の不安定化も完全雇用からの後退にほかならない。雇用政策が完全雇用を実現からますます遠ざかっている。しかも新たな雇用政策への展望も生れていない。こうした事態は雇用政策の危機を意味する。
3.地域産業と雇用の衰退―岐阜県を中心に
1) 海外進出の拡大
円高と国際化の進展は岐阜県でも基幹的産業の海外進出を促している。それは海外生産によるコストダウンをめざしたものであり、逆輸入の拡大につながっている。海外進出は二重の意味で地域産業に打撃を与えることになる。
2) 基幹産業の衰退
雇用面からみても岐阜県は製造業の比重の高い「ものづくり」地域である。そのなかでも繊維・アパレル産業、および陶磁器産業の占める比重は高い。これらは地域の基幹産業の地位を占める。これらが急速な衰退に陥っている。10年強の期間に基幹産業合わせた従業者数は男子で2万人弱(36%)減少し、女子で3万人弱(47%)も減少した。製造業全体でも同じ程度に減少しており、少なくとも製造業では新たな成長産業は生まれていない。
3) 地域雇用の衰退
基幹産業の衰退は当然のことながら雇用の衰退をもたらす。女子では、紡績業、衣服製造業、陶磁器製造業が雇用者減少の中心である。男子でも、この三業種が雇用者減少の中心であるが、その程度は女子に及ばない。基幹産業の雇用衰退は女子を中心に生じている。他方で雇用を増加させている業種もある。女子では、食品小売、飲食店、医療での雇用増加が顕著である。男子ではこれら産業での増加はわずかであり、総合工事、、輸送機器、貨物運送、などでの増加が目立っている。地域雇用の衰退と変動は女子を中心に生じていると言えよう。
4) 地域雇用の不安定化
地域雇用の衰退は製造業からサービス業種への大きな雇用流動化を伴なっていた。しかし雇用の受け皿となるサービス業種の多くでは臨時・日雇・パート・アルバイトなどの非正規雇用の占める比重が著しく高い。それは女子の場合により顕著である。雇用の流動化は実は雇用の不安定化につながっている。
4.雇用政策の展開―規制緩和・雇用創出
1) 規制緩和
雇用の衰退と雇用リストラを前提として完全雇用を維持しようとすれば、新産業創出とそれによる雇用創出を不可欠な政策目標とせざるをえない。規制緩和がそのための有力な政策手段と位置付けられることになる。雇用分野の規制緩和は労務コスト削減と労働力供給拡大をつうじて投資を促進し、その結果として雇用創出につながるとされる。しかし規制緩和がそのような効果を生み出すことは期待薄と言わざるをえない。なぜなら増大する生産に対応する需要が存在する保障がないからである。
労働時間の短縮それ自体はワークシェアリングによる雇用創出が期待できる。しかし現実には労働時間規制の弾力化が先行している。変形労働時間制や裁量労働制の拡大は残業の合法化という側面を持ち実質的な時間短縮効果は限られたものになっている。労働者派遣事業や有料職業紹介事業の原則自由化、均等原則を欠くパート労働法の制定、有期労働契約の拡大、女子保護規定の撤廃を伴う男女雇用機会均等法の強化、これらはいずれも雇用形態の多様化を志向している。これは労務コストの抑制につながるものとして積極的に推進されている。しかしこれは雇用面のセーフティネットの脆弱化を意味しており、逆に消費需要を抑制し、結果的には雇用創出にもマイナスの効果をもたらすことになる。
2) 財政出動による雇用創出
雇用創出には多様な政策手段が取られてきた。不況業種の救済による雇用維持、雇用調整を援助することによる雇用維持、迅速な労働移動による失業の顕在化の抑制、雇用不足地域における雇用開発、創業支援による新規雇用創出、これらはいずれも雇用創出と位置付けられてきた。これらに共通することは財政支出の拡大を伴なっていることである。しかし財政危機の深化はやみくもな雇用創出を許さなくなっている。「失業なき労働移動」と唱される労働移動の促進や創業支援に力点がおかれ始めている。限定的な財政支出が雇用衰退を補うほどの雇用創出を実現する見込みはきわめて薄い。
5.むすび―これからの地域雇用
規制緩和でも、直接的な雇用創出でも地域雇用の維持・拡大ができない。だとすれば積極的な地域産業の育成と雇用の創出が重要となる。しかし財政支出の拡大がますます困難になり、低価格化による需要の掘り起こしに限界があるとすれば、新たな地域産業と雇用創出を生み出す雇用戦略が求められる。生活スタイルの変化と結びついた商品、、サービスの創造による消費需要の掘り起こしである。いわば生活産業の創出である。一例をあげれば介護ビジネスも生活産業として発展する可能性を有している。しかし介護サービスの切り売りは介護ビジネスの発展にはつながらない。このことは介護保険発足後の介護ビジネスの不振が証明している。